【ミケランジェロが命をかけて作ったダヴィデ像】をわかりやすく解説

芸術の歴史

神の庇護のもとで弛緩した右半身と、悪の力にさらされて緊張した左半身。1504年によってつくられた高さ434センチの巨象は、天才ミケランジェロの手によりひとつの大理石から掘り出されました

大理石で作られた像は一度掘ったら継ぎ足すことなどできず、緻密な計算の元で『立派な男性』に姿を変えたのです。今日はルネサンスの三代巨匠のひとり、ミケランジェロがつくったダヴィデ像についてご紹介します。

天才、ミケランジェロ

ダヴィデ像を製作したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチと同じ時代を生きたミケランジェロ・ブオナローティときは16世紀、手で打つノミや木製の起重機しかない時代に、これほどの巨大な像を大理石から切り出した天才です。彫刻だけでなく、絵画、建築などでも名を挙げた彼は、1475年イタリアの貴族ブナオローティ家に生まれました。

といってもそこまで裕福ではなく、わずかな土地から得られる地代で生計を立てている没落貴族でありました。6歳で母を失った彼を父はラテン語教室に通わせ、『役人』となるよう教育を施しました。そこで文学的素養を学ぶも、ミケランジェロは芸術の道を志しまっすぐ自分の信じる方へ進んでいきました。

やる価値のあることなら、たとえ最初は下手であっても、やる価値がある

解剖で人体理解を深めて

当時職人 (手を使う仕事) は身分が低いとされていました。

父は大反対しましたがミケランジェロは工房に弟子入りをし、一年後には豪商メディチ家の後援を得て彫刻を始め様々な芸術に触れていくようになります。ちなみにレオナルド・ダ・ヴィンチが解剖学に秀でていたのは有名ですが、ミケランジェロも17歳のときに解剖を行い『人体理解』を熟知していたといいます。

1492年に後援者のロレンツォ・デ・メディチが死去したことにより、ミケランジェロを取り巻く環境は大きく変わります。ミケランジェロはメディチ家の庇護から離れて父親の元へと戻り、その後数ヶ月をかけて、フィレンツェのサント・スピリト修道院長への奉献用に、木彫の『キリスト磔刑像』を制作しました。彼は修道院付属病院で死去した人の身体を、解剖学の勉強のためにミケランジェロに提供した人物でした。

ダヴィデ像の製作

ダヴィデ像につかわれた大理石は25年間もフィレンツェのサンタ・マリア大聖堂の奥に放置されていたものでした。かつてアゴスティーノという職人が、あらく削っただけで放棄されていたのです。レオナルドなど著名な芸術家にも打診がいきましたが、最終的に委託されたのはミケランジェロでした。

26歳の天才青年ミケランジェロが、この巨大な彫刻のためにつかったのは、ハンマーとのみ、ラスとやすりとスクレーパー、そしてドリルのように前後に回転させることができる木製の弓というシンプルな道具だけでした。

失敗が許されない大理石の像は、ブロンズ像よりはるかに高く今の価格で億はくだらないといわれています。しかし原材料がたかく石の移動にも労力を費やし、製作に何年もかけ、そのうえ助手を雇うことも考えるとけして儲かる仕事ではありませんでした。

モデルは『巨人ゴリアテを倒した後のダヴィデ』

ところでこのダヴィデ像の、『ダヴィデ』とはいったい誰かというと、旧約聖書の登場人物でありヒーロー、巨人ゴリアテを倒す若き男性です。

巨人ゴリアテに挑む若きダヴィデは、まわりを大国に囲まれながらものしあがっていく、新興国フィレンツェのシンボルとみなされていました。敵対する巨人ゴリアテにむけた憤怒の表情、これは闘う直前のダヴィデの様子が彫刻されています。

血管の浮き出た写実的な手は、台座にのせて下から見上げたときのバランスを考慮して、頭とともに実際の比率より大きく作られています

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過酷な作業現場

ミケランジェロはシンプルな道具を用いて、13フィートの大理石の石板をゆっくりと掘削しました。以前手にかけた彫刻家の不器用な傷をよく観察し、彼の労力をムダにすることなく、完璧な手足、呼吸する胸骨、その中の鋭い視線を掘り出すことに挑んだのです。

制作は、ほこりまみれ汗まみれで、骨の折れる秘密のもので、大聖堂の作業場の仕切りの裏で行われたので、誰も彼の寸法をのぞいたり像の石の目にハート型の瞳孔を開けるのを見ることはできませんでした。

想像との戦い

今日アカデミア美術館において、ダヴィデを彫刻したミケランジェロの仕事を想像するのは不可能でしょう。彼がどうやって労苦を軌跡へ転換させたのか。ミケランジェロの他の作品も「想像との戦い」だったことでしょう。

形のない石から創造すること。未完成の体が掘られたブロックを、高いヒーローへ変えていく。しかし『ダヴィデ像』はまさに、製作者ミケランジェロ自身でありました。

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遠くに立つと、ミケランジェロがペンとインクで自信を持って空中の形状をマッピングしたかのように、輪郭が鋭い絵となって浮き上がります。顔はほぼ90度回転して左を向いており、鼻の三角形、張り出した眉の山の露頭、空間に飛び散る華やかな髪が、きらめく輪郭を形成しています。

この距離からみると、身体のプロポーションは数学的に優美です。上半身と下半身の均衡もとれており、体の重量が右足に優雅に移行していくことを感じることもできます。

まとめ

近づくと調和のとれたシルエットが心に残りますが、一見する瞬間的な印象に溶け込みます。非常に高い胸の隆起と緊張。像は生きている人の2倍以上の高さ、背の高い台座に乗っているのでさらに高くみえるでしょう影のニュアンスで、ダビデは豊かに陰影付けされます。

大理石の中で脈打つ静脈、でこぼこした指関節、おおきなな親指の上のシワ、ミケランジェロが刻んだ美しい身体。横腹にある巨大な手にみえるシワと血管彫刻家が惜しげもなく贅沢に細部にまでこだわりが施されています。ダヴィデ像の完成により、ミケランジェロはさらに多くの注文を受けるようになりました。中世ルネサンスの巨匠、天才ミケランジェロの傑作品。今本物をみられること自体がもう私たちにとっては奇跡といえるのかもしれません。

この記事を書いた人

世界史好きの英日翻訳者。

愛読書はスペインの児童書「ベラスケスと十字の謎 」。読み漁った文献は国内外のものをあわせて100書以上。史実をもとに、絵画や芸術品の背景にある人間ドラマを炙り出します。

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